第12話
「…海だ…」
「え?俺海行くって言ったよな?」
隣にいるユウマくんはそう言いながらも、すでに着ていたTシャツを脱いでいる最中だった。
「うん、そうだけど…砂浜とかって遠目から見たことしかなくて」
「あー、あっちって海ないんだっけ」
「いや、海はあるよ。東京だもん」
「東京って海ないんじゃなかった?」
「あるよ」
「え?どこに?」
「どこって東京湾があるじゃん」
こんな常識を知らない年上がいたとは驚きだ。
うっかりしていたのかなんて考えも一瞬頭をよぎりはしたけれど、
「あー…」
ユウマくんのその反応は、きっと“東京湾”にすらピンと来ていない。
それは遠く離れた土地のことなんて興味がないからそうなのか、それとも単純にこの人の知識が不足しているだけなのか。
「ユウマァーーっ!」
私達の間に流れた変な空気に割って入るように聞こえたそれにお互いが引っ張られるようにそちらを見れば、少し離れたところからこちらへ手を挙げる人が見えた。
「おぉー!悪い、遅くなったぁー!」
ユウマくんはすぐに手を挙げて応えていた。
「行こ行こ!」
「え、待って…」
「あの五人組俺の友達だから」
「ユウマくん」
「うん?どした?」
「私、たしかに友達が欲しかったんだけど……マジ?」
「へっ?」
“新学期が始まる前に友達作っとけば楽じゃん!”
あんなことを言っていたくせに、そこにいた五人組は全員男だった。
「私てっきり女の子がいると思ってた」
「友達作るのに男とか女とかどっちでもいいじゃん」
「まぁそれはそうだけど…」
「それにシロウがどっかにいると思うから」
「さっきから言ってるシロウって誰?」
「あとチャリがあったから他にも一年が来てるだろうから。すぐ友達になれるよ」
「…シロウの説明は無いんだね」
「ははっ、アイツは会わせた方が早い」
それからユウマくんは、脱いだTシャツを片手に私の手首を引いて砂浜へと続く階段を降り始めた。
もう何度名前を聞いたか分からないその“シロウ”について、私が知っているのは同じ十三歳ということだけ。
“シロウ”って苗字?名前?なんて思いながらここまで来たけれど、この流れから察するにおそらくその“シロウ”も男だろう。
まぁ男でも、同じ学年に顔見知りができるなら心強いかな。
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