第10話

「じゃあ後ろ乗せてってあげるよ。シロウにも会わせてやろー」


「……」


見知らな土地で、出会って数分の男に易々と着いて行くのは如何なものだろう。


さっきの発言からしておそらくこの人も同じ中学生なんだろうけれど、だから大丈夫と考えるのはあまりにも危機管理能力が低いんじゃ…



でも暇だし。


どこに何があるかもよく分からないこの場所での時間の潰し方なんて、やっぱりどう考えても皆目見当もつかないし。


…友達、欲しいし。



ゆっくり落としていた目線を再びそちらへ向ければ、その人はすでにまた反転させた自転車に跨り私が後ろに乗るのを今か今かと待っていた。



…何より、私にはこの人がどうしても悪い人には思えなかった。



進行方向を見つめているその人の顔は私が今いる位置からは確認できないけれど、その後ろ姿だけでもご機嫌なのが手に取るように分かり、私はすぐに日傘を差したままその人の自転車の荷台に跨った。


「よしっ、行くか!」


「うん!!」


ゆっくりと動き出した自転車はそのまますぐに勢いがつき、あっという間に私の腰まである長い髪を大きく揺らすほどの風を生み出した。


「海って近いのっ?」


「おー、めちゃくちゃ近いよー。もうあのコンビニ曲がったらすぐそこ」


その人の言うコンビニは目の前に大きな背中があるせいで見えず、だからこそ自分が今進んでいる道の先だってもちろん私には見えていなかった。



でも何でだろう。


何にも怖くない。


その時、私はついさっきおばあちゃんに言われた言葉を思い出した。



“人間ね、辛い時は思いっきり泣かなきゃ。それで一頻り泣いたらしっかり前を向くの。そしたら自然と楽しいことが見つかるから”



…あぁ、そうか。


だから私は今こんなにもワクワクしてるんだ。



「名前はー?俺はユウマ!」


「私はハルナ」


「どこから来たん?」


「都内」


「うおー、やっぱそうかぁ。絶対都会だと思ったわ」


「何で?」


「雰囲気がもうね、アレよ」


「アレ?」


「そう、アレ!」


…“アレ”って何だろう。

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