第9話
二メートル程先にいたのはさっき私がすれ違ったと思われる男の人で、その人はしっかり自転車に跨りながらも止まってこちらを振り返っていた。
「え…なん」
そこまで言ったところで、その人が慌てたように自転車を降りてそのままそれを押しながらこちらに引き返してきたから、私はとりあえず話すのをやめた。
「なんで雨降ってないのに傘差してんの!?」
「えっ?あ、えっと…これ日傘で…」
初対面とは思えないテンションで声をかけられたことに少し圧倒されながらもそう答えれば、その人は「あぁ!そっちかぁ!」と言って笑った。
見た感じ歳は近い。
でもきっと私よりは上だ。
自転車に乗っていることから察するに、この人もこの辺りに住んでいるらしい。
しかも家の方向もたぶん同じで———…
「この辺じゃ見ない顔だなー」
自転車のハンドルを両手で掴みながらぐっとこちらに体を屈めたその人に、私は気持ち程度身を引いた。
「見た感じシロウと同じくらいか?」
私をじっと見つめながら独り言のようにそう言ったその人に、私は黙ったままその目を見つめ返した。
「夏休みで親戚の家に遊びに来てるとか?」
「…違う」
「うん?」
「引っ越してきたの」
「へぇー!いつ?」
「今日」
「今日!?」
「小一時間前に」
「マジで!?」
そこまで話したところで私は敬語を使うことをすっかり忘れていたことに気付いたけれど、その人はそんなことを気にする様子もなく「ついさっきじゃん!!」と興奮していたから私ももう気にしないことにした。
「で、今は何してんの?探索?」
「まぁ適当に…家にいてもすることがないから近所を歩いてみようかなって」
「ふーん…あ、じゃあ一緒に来る?」
その人はそう言いながら、さっきまで進んでいた方向である背後を右手の親指で指し示した。
「えっ?」
「暇なんでしょ?俺今から海行って友達らと遊ぶからおいでよ。中学生?だよね?新学期が始まる前に友達作っとけば楽じゃん!」
「あぁ…それはたしかに…」
…言えてる。
けど———…
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