第8話

ご飯を食べ終わり片付けを申し出た私は、それをおばあちゃんにあっさり断られたことですぐに外へ出る準備をした。


迷子になっても困るし、とりあえず今日のところは周辺を歩いてなんとなくの土地勘が掴めれば上出来かな。


明日は中学校にも歩いて行ってみて、明後日はバスに乗って市内に出てみて、…


残り約十日の夏休みをどう過ごすかと頭の中で考えながら靴を履いていた私に、また背後から床の軋む音が聞こえた。



「もう行くの?」


「うん。すぐ戻るからね」


「何かあると困るから電話は持って行きなさいね。ここの電話は知ってる?」


おばあちゃんが携帯のことも番号のことも同じように“電話”と言ったことに口元が緩みそうになりつつも、私は「知ってるよ。大丈夫」と言ってそばにあった日傘に手を伸ばした。


「ん?雨なんか降ってないよ?」


「これ日傘」


「ありゃー。都会の子はませてるわぁ」


「小学生の時からみんな使ってたけどね。じゃあ行ってきます」


「いってらっしゃい」



そのまま玄関を出た私は、右隣にある大きな家に背を向けるよう左へと足を進めた。


少し進めばこの辺りにしてはまだ広い通りに出られそうで、私は特に当てがあるわけでもなくとりあえずその通りを目指して歩いた。



その通りまで出ると車はそれなりに行き交っていて、スーパーやドラッグストアなどのお店が道路を挟むように所狭しと並んでいた。


一応生活に必要なお店は揃っているらしい。


でもここは“賑わっている”というより“これで間に合うだろう”というような感じだった。



さて…これからどこへ行こうか。


大きな通りに出たことで進む方向を見失った私は、とりあえず今日はおばあちゃんの家の周辺を巡ろうとすぐに来た道を戻るために反転した。



ちょうどその瞬間、そちらからやってきた自転車とスッとすれ違った。



それは本当に綺麗にかわすようなタイミングですれ違ったから、その人の顔なんてもちろん見ることもなく私はまた歩き出したのだけれど、



「えっ…!?」



背後から突然そんな声が聞こえて、私は思わず足を止めて振り返った。

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