第7話
ここに来ることに対して都会から離れる寂しさが特別大きかったわけでもないけれど、友達もいないこんな自然に囲まれた場所で一人、私は一体何をして過ごせばいいのか…
やっぱりテレビいるかな…
そう思った時、居間の窓からふわっと優しい風が吹いて広がったカーテンが私のすぐそばまでやってきた。
私はそのカーテンの動きに思わず目が釘付けになった。
「…おばあちゃん…」
「うん?」
「風って、こんなにも柔らかいんだね」
そんなよく分からないことを言った私に、おばあちゃんは親子丼を食べる手を止めてこちらを見た。
「それでいてすごく存在感がある。私、都内にいる時はこんなに風を感じたことってなかったかもしれない」
「向こうはビルがいっぱいで風が通る道がないんだよ」
「うん、それもあるのかもしれないね。でも一番は、単純に風に意識を向ける余裕がなかったんだと思う」
それに気付けばいろんなことに気がついた。
外からは小さな小鳥の鳴き声が無数に聞こえるし、蝉だってまだまだ活発に鳴いているし、暑いのはもちろん変わりないけれど、都内にいれば当たり前につけるエアコンだってこうして窓を開けていればなんとか無くても凌ぐことはできそうだ。
体が無駄に冷えなくていいし、何よりじんわりかく汗は何にも気持ち悪くなんてなかった。
「ここは体に優しい街なんだね」
畳のいい匂いがする。
それ以外の、このお年寄りの家特有の匂いの正体は何なんだろう。
突き詰めればきっと加齢臭だって大きく関係しているはずなのに、ここの匂いはそんな嫌なものでもない。
きっとこの街とこの家の全てが混ざり合って出来上がっているものなんだ。
ここでお父さんも育ったのか…
ずっと黙って私の言うことに耳を傾けていたおばあちゃんは、「あとで外を散策してくる」と言った私に「はい」と言って今度は嬉しそうに笑った。
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