第6話

「人間ね、辛い時は思いっきり泣かなきゃ。それで一頻り泣いたらしっかり前を向くの。そしたら自然と楽しいことが見つかるから」


「…うん」


「ま、そんなことはさておき、長旅お疲れ様。お腹空いたでしょう」


たった今私の目の前に腰を下ろしたおばあちゃんは、すぐにまた立ち上がって再度キッチンへと姿を消した。




それから二十分程して出てきたのは親子丼とおばあちゃん特製だというぬか漬けで、私達はそれをテーブルを挟むように向かい合って食べた。


その時、食べながらいろんな話をした。


おばあちゃんは今年七十歳になったらしい。


それから私とは赤ちゃんの時に一度だけ会ったこともあるんだとか。



お父さんお母さんとの関係については、私はどうしても聞く勇気が持てなかった。



「服とか学校の荷物は明日の朝届くの」


「うん、聞いてるよ。こっちの部屋は使っていいからね」


そう言って、おばあちゃんは今私達がいる居間の奥の部屋を指差した。


「えっ、私の部屋あるの!?」


「もちろん。年頃なんだから必要でしょう?私はここにいなかったらあっちの部屋にいるからね」


そう言っておばあちゃんが次に指差したのは、私の部屋と真反対にある、居間と玄関を挟んだ向こうのドアだった。



「うん、わかった」


「テレビとかないんだけど欲しい?」


「ううん、いい。私前の家でもテレビは全然見なかったし。おばあちゃんありがとう」


「じゃあまぁ欲しくなったらその時考えようかね。ちなみに学校は九月一日からだって」


「一日か…」


今日が八月二十日だから…あと約十日…


中学生になってたった数ヶ月しか経っていない、二学期というかなり早い段階で転校することになったのはある意味ラッキーだったと思う。


それなりに友達くらいほしいし。


とは言っても、こんな田舎じゃあきっと小学校だってみんな同じだったりするんだろうけれど。


「中学校って近い?」


「うん、ここから歩いて十五分くらいかねぇ。あとでその辺を歩いたりしといでよ」


「歩くったって、見るからに何にもなさそうじゃん」


「山と川と海があるよ」


「うーん…」


「市内に出れば一通りは揃ってるけどねぇ」


「……」


正直今日はもう電車やバスに乗るのは避けたいところだ。


黙って悩まし気にする私に、おばあちゃんは「都会の子にはつまんないかねぇ」と言いながら困ったように笑っていた。

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