第1話

その日は蝉の鳴き声がとにかく忙しなかった。


それから三十畳ほどありそうな畳の部屋で、線香の匂いが立ち込める中私は大人達の下品な会話をたくさん聞いた。


それで分かったことは、生前の父と母にはかなりの蓄えがあったということ。



火葬場に移れば、今度は肉の焼けるような匂いが私の鼻を刺激した。


すぐそこで人を焼いているのだと思えば何とも言えない気分になり、火葬が終わるまでの間に出てきたお弁当には全く食欲が湧かなかった。


改めて考えると、死んだから焼くなんて残酷だ。



「これ一つ五千円ですって」


「え、じゃあざっと五十人くらいはいるから…」



…また始まった。


大人はお金の話が好きらしい。


五千円もするらしい目の前のお弁当はもちろん冷えきっているから美味しそうには見えないし、何より人を焼いているこの匂いを嗅ぎながらなんて進むわけもない。


そう思いながら目の前のお弁当から顔を上げれば、周りの大人達はバクバクと勢いよくそれを食べ進めながら呑気に世間話をしていた。


どうやら食欲が湧かないのは私だけらしい。



「娘さんまだ中学生になったばかりでしょう?可哀想に」


「これからどうするのかしら。お金があってもさすがに中学生が一人で生きていくのは無理があるわよねぇ?」



大人達の話題が私に向いたことに嫌気がさした私は、そのお弁当に全く手をつけないままそっと立ち上がり部屋を出て、そのまま建物からも出て行った。



外の大きな木のそばに行けば、蝉の死骸が足元に転がっていた。


…焼いてもらえるだけまだマシか。


そう思いながら私はその蝉の死骸を拾い上げ、それを埋めるための穴をその木の根元に素手で掘った。



「君がハルナちゃんだね?」



私が父の弟夫婦にそう声をかけられたのは、蝉に土を被せているその真っ最中だった。

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