第2話

前日の通夜から思い返して私に声をかけてきたのはその夫婦が初めてで、その瞬間私はこの人達に引き取られるのだと悟った。


返事をするのも忘れてそちらを見つめる私は、頭の中で少し前に読んだ漫画に自分を当てはめていた。


たしかあの漫画の主人公も早くに両親が死んで、見るからに意地の悪そうな叔父さんに引き取られてた。


それでいじめられたり家の雑用をさせられたりした挙句、寒い冬に外へ閉め出された主人公を拾ったのはなぜかイケメンのヤクザだった。


あれって結局最終的にはどうなったんだっけ…



その漫画の結末を思い返そうとしていた私にゆっくりこちらへ歩み寄ってきたその二人は、膝に両手を置いて体を屈めると優しく笑いながら「はじめまして」と言った。


あれ…全然意地悪そうじゃない…


その瞬間、ずっと聞こえていたはずの蝉の鳴き声がより一層大きくなった気がした。


それに今は真冬でもなかったな…



「何にも心配はいらないよ」


そう言ってずっと黙っている私にひたすら笑いかける叔父さん夫婦は、私のこれからをゆっくりと柔らかい口調で説明してくれた。


てっきりこの夫婦に引き取られるのだとばかり思っていたけれど、実際の私はここから何十キロも離れたところにいる父の母でありこの叔父さんの母でもある祖母のところへ行くことになったらしい。



「ごめんね、生まれ育ったこの街を離れてしまうんだけど…」


「私は大丈夫です。どこで誰と住んでも平気なので、それより学校のこととかいろいろとよろしくお願いします」


私がそう言って頭を下げたことで、私は生まれ育った都会を離れることと顔も知らない祖母と暮らすことが決定した。





数日後、私は叔父さんにもらったメモを頼りに都内から祖母の元へ向かった。

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