第76話
「憧れの電車通学できるじゃん」
「憧れてたのはあんたでしょ」
「俺?あー、そんなこと言ったっけ」
「言ってたよ!他校の可愛い子見つけて声かけたいって」
「マジで!?」
「うん。それで告って付き合うんだって言ってた」
「はっ!?」
「えっ、覚えてないの?階段の下からスカートの中覗いてやろうって言ってたじゃん」
「あははっ、覚えてねぇ!!てか俺キモいな!!」
「いや嘘だよ、バカ」
彼のやりたいことはきっと、
当たり前に生きている私たちにとっては明日にでもできそうなことばかりだ。
「ははっ、なんだよ、それ!」
「いや考えなくても分かるでしょ、自分の発言なんだから。でも可愛い子に声かけるって言ってたのはマジだよ」
「マジで!?」
「だからそうだっつうの」
彼は自分の過去の発言がかなりツボだったらしく、それからしばらくお腹を抱えて笑っていた。
「あー、ウケる……てかこんな病人に声かけられても迷惑なだけだろ…ははっ…ったく………面白ぇな…」
「……」
彼はたしかに笑っていた。
でも、その声は泣いていた。
すごい…
人って声だけでも心臓を捻り潰せてしまうんじゃないかと思うくらいに、今ものすごく私は胸が苦しくなった。
「そっちは?高校決めたの?」
「俺?俺は受験どころじゃねぇって」
「それなら私も高校行くの辞めよっかなー」
「親が泣くぞ」
「看病っていう進路があればいいのに」
「暇人かよ」
時々思う。
どうして病気になるのは彼だったのだろう、と。
人は誰しもが平等だなんて、そんなふざけたことを一番初めに口にしたのはどこのどいつだ、と。
「高校でもテニス続けんの?」
「え?」
「だからテニスだよ。お前テニス部だろ」
「あー…」
…そっか、
私って今テニス部ってことになってるんだったな…
「どうだろ…分かんないや」
「そっか…でも前から思ってたけど、お前ってテニス部の割には肌が白いよな」
「あー、それよく言われる。焼けにくいんだよね」
「そっか。お前のテニスしてるとこ見たかったなー」
「過去形かよ。見に来ればいいじゃん」
「…あぁ、うん。行けたら行くわ」
それはきっと叶わない約束だ。
社交辞令でよくある感じという意味ではなく、彼はこの建物からは出られない上にそもそも私はテニス部員なんかではない。
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