第70話

「っ、ごめんっ、大丈夫!?」



それでもユキはやっぱり私の元へ来てはくれなかった。


私は諦めのような気持ちでまた地面へ目線を落とした。




「……逃げなよ、ユキ…」


「…え、」



これが限界かな…



「…今のうちに逃げていいよ」


「……」




しつこいとかウザいとか、


先輩の時は気付かなかったけど今なら分かるよ。



だってユキ、こんなにもしっかり逃げてるんだもんね。




「話せても話せなくても、どうせ今日で最後にするつもりだったし……」


「……」


話せたところで私に返ってくる言葉は辛いものだろうし、話せないってことはまた逃げられるってことだろうし…


私はきっともう身を引くべきだ。



「散々追いかけ回してごめんね…」


「……」



立ち去るような足音も私に向けられる声も聞こえてこないまま、私達はなぜかよく分からない沈黙の中にいた。











「———…ナエちゃんは無防備すぎるよ」



そんな声と共にこちらに近付く足音が聞こえて、私は思わず顔を上げた。


その時にはもうすでにユキは私の目の前にいて、着ていた制服の上着を脱いでふわっと私のお尻にかけながら目の前にしゃがみ込んだ。



「パンツ見えちゃうよ?」


「後ろはゴミ捨て場だし…」


「それはここだからでしょ?これが廊下とかでもナエちゃん今と変わんなそうだし」




こんなにしっかりと目を見て会話をするのはとても久しぶりな気がする…




「…何で逃げてたの?」


私のその問いに、目の前にいるユキはスッと私から目を逸らした。



「…だってナエちゃん…俺のこと全く眼中にねぇじゃん」


「……」


「いくら好きでもさ、そういうの直接本人から感じ取るのって結構辛いんだよ」


「……」



あぁ、そっか…


ユキもちゃんと、私に今までいっぱい伝えてくれてたんだった…



「またナエちゃんが他の男好きになってくのを近くで見てんのも嫌だし…それならもう、」


「ユキのこと好きだって言ったらどうするの?」


「………え……?」


ずっと目を逸らしていたユキは、驚いた顔でこちらを見た。

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