第67話
ユキが私を連れて行ったのは保健室だった。
「良かった…誰もいない…」
ユキはそう呟きながら中に入ると、電気をつけて私を近くの椅子に座らせた。
「電気つけたけど…この雨のせいでだいぶ暗いね」
「うん…」
「暗いの平気?」
「うん…」
「…そっか」
ユキは私の足元に膝をつくようにしゃがみ込むと、下から私を見上げた。
「ナエちゃん、靴と靴下脱がしてもいい?」
そう言われて初めて私は上履きのまま外に出ていたことに気がついた。
「…あ、うん…」
もう靴下もすっかり雨に濡れてしまっていた。
それからユキは、ゆっくり優しく私の足を片方ずつ持ち上げて靴と靴下を脱がしてくれた。
「タオル持ってくるから待ってて」
そう言われたから保健室から出るのかと思っていたけれど、ユキが向かったのは保健室の奥にある棚だった。
そこから大きなタオルと小さなタオルを一枚ずつ持ってきたユキは、小さなタオルを私の足の下に敷いて大きなタオルで私を頭から優しく包み込んだ。
「髪、すごい濡れちゃったね…」
「うん…何でタオルの場所知ってるの…?」
「俺も前に雨でめっちゃ濡れたことがあって、その時保健室の先生が貸してくれたことがあったから」
「そうなんだ…」
「うん…」
それから私達はお互い何も話さず、ユキはひたすら優しく私の頭をタオルで拭いてくれていて、私もそれに大人しく頭を預けた。
「…何があったか聞かないの…?」
「話したいなら聞くけど…大方ショウジ先輩のことでしょ」
「ユキ知ってたんだ…あの人のこと」
「まぁ遊んでるって噂は聞いたことある」
「教えてくれてもよかったのに…」
「言ったってナエちゃんの気持ちは変わんないじゃん。それに好きな人のこと悪く言われるのは嫌でしょ?」
「うん…」
それからユキは、「俺がナエちゃんのこと誰かに悪く言われたら絶対そいつ許さないよ」と力強く言った。
その優しさやこれまでの自分の浮かれ具合や、ショウジ先輩に言われたことの全てが今一度のしかかってきて私はまた俯いたまま泣いた。
嗚咽を漏らす私に絶対に気付いていたとは思うけれど、ユキは何も言わずに私の頭を拭き続けてくれた。
「ねぇ、ユキィっ…」
「…うん?」
「私今、すっごく辛いっ…」
「うん…」
「ショウジ先輩っ…私の好きは軽いって…アピールがウザかっただけだってっ…っ、…」
「……」
好きだから好きだと伝えていただけなのにそれをウザいだなんて…
じゃあ私はどうすれば良かったのだろう。
可能性がないならはっきりとそう言ってくれたら良かったのに。
それを言わずに関係を進めたショウジ先輩は何も悪くないと言えるのかな…
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