第59話
食堂の列に並びに行ったショウジ先輩の背中を見つめながらまた椅子に腰を下ろすと、すっかり存在を忘れていたユキの声がすぐに私の耳に届いた。
「ナエちゃん、ショウジ先輩のこと好きでしょ」
「え…うん」
隠すつもりなんて全くないから、私は当然のようにそう答えた。
それから、その何となく責めるような口調に「悪い?」と強気な言葉を返した。
「いや、…へぇー、でもそっかー、ああいう感じがタイプかぁー。俺と真逆すぎて笑えるね」
ユキはやっぱり柴犬だけど、もうその尻尾に元気はなさそうだった。
「しかも“ナエ”とか呼んじゃって」
「うん、私が呼んでほしいって言ったから」
「もう告った?」
「うん、何度も」
しっかりフラれてしまえば私はきっと気持ちを切り替えられるけれど、ショウジ先輩の答えはすごく曖昧だった。
「ありがとう。すごく嬉しい」
…たったそれだけだった。
私が「好きです」しか言わなかったのがいけなかったのかな。
そのあとに“付き合ってください”と言っていれば、ちゃんとした答えが得られていたのかもしれない。
でも今更それを聞くこともできなくて、私はひたすら片想いを続けている。
でも私が「下の名前で呼んでほしい」と言えばすぐに私を“ナエ”と呼ぶようになってくれたし、さっきみたいに校内で会えばいつも明るく声をかけてきてくれるし…
可能性がなくはないのだと信じたい。
目の前に座るユキは、「はぁっ、」と大きなため息を吐いたかと思うと「面白くねぇーなぁー」と大きな独り言を口にした。
「なら自分の教室戻りなよ」
「嫌だ。てかなんかナエちゃん、さっきよりうどん食うペース落ちてない?」
「そんなことないよ」
「うどんを買ったショウジ先輩がこっちに来てくれるかもって思ってるんでしょ?」
まぁそれは…思わなくはないかな。
ショウジ先輩、今日は一人みたいだし。
「でも残念、俺がいるからあの人の座る席なんかないよー」
「別にそんなこと期待してないよ」
「あ、もしかしてそれでさっき俺に教室戻れって言った?」
「だから違うってば」
「じゃあいてもいい?」
「……」
思わず黙った私に、ユキは両肘をテーブルに乗せるようにして少しこちらに身を乗り出した。
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