第57話
「あるよー、名前を呼ぶって言う用が」
「暇なの?」
「違うよ、俺の真の目的はその先!名前を呼べばナエちゃんはちゃんと俺に反応をくれるじゃん。そしたら自然と会話が生まれるじゃん」
「私と会話がしたいってこと?」
「そう、それ!」
そう言って満面の笑みで私を見つめるこの彼は、私の目を通して見れば頭に耳が生えていてお尻からは尻尾が生えているように見える。
で、それをこれでもかというくらいに全力で振っている。
「ユキって犬みたいだよね」
「それよく言われる!何犬?」
「うーん、柴犬かな」
「それ絶対俺が茶髪だからそう見えてるんでしょ?」
「そんなことないよ」
ユキって柴犬が尻尾振って舌出してる時にそっくりだもん。
それにその可愛い系統の顔がまたさらにユキという人間を柴犬に近付けてるんだよなぁ…
「ナエちゃん、」
「ん?」
「ナエちゃん、」
「ねぇ、もう会話はスタートしてるのに名前呼ぶ必要ってあるのかな?」
「ふへへっ」
ユキは変な声で笑いながら両手で顔を覆うと、指の隙間から私を覗き見ていた。
おバカ…
「…何やってるの?」
「見てる」
「うん、それは分かるけどね?私が聞きたいのはなんでそんな見方なのってこと」
「面白い見方した方がナエちゃん笑ってくれそうだから」
「ユキって絶対尽くすタイプだよね」
「うん!!尽くすよ!!何でもしてあげる!!」
———…「私たちはきっと合わないよ」
私は以前ユキにそう言ったことがある。
それは私としては、熱心な彼の好意をお断りする意味を持ってその言葉を発したつもりだった。
もちろんそれは嘘でもなんでもない。
だってユキは絶対に彼女に尽くすタイプでしょ?
私も私で、絶対に彼氏には尽くすタイプでしょ?
そんな二人が付き合ったりしても、お互いのお互いを思う気持ちが実際は二人を遠ざけてしまうと思うんだ。
人と付き合った経験の少ない私が偉そうなことは言えないけれど、尽くすって遠慮とか気遣いにも近いものだと思うから。
お互いが相手にずっと気を遣っていたらその距離って一生埋まらない気がするんだよね。
でもユキはその時、「憶測だけで俺を対象外にしないでよ」と言った。
まぁそれも確かにそうだなとは思いつつも、私にはその時もちゃんと好きな人がいたからユキの気持ちに応えることはできなかった。
そしてそれは今も継続している。
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