第56話
でも彼はそれから会うたびに私の体を求めるようになった。
私にはまだまだ痛いだけの行為でしかなかったからできればあまりしたくはなかったのだけれど、彼の気持ち良さそうな顔を見るのはなんだかすごく心が満たされた。
そんな彼は、日に日に所構わずそれを求めるようになった。
例えば駅のトイレだとか、プリクラ機の中だとか、夜の人気のない公園だとか。
そしてそれに耐えられなくて一度拒否をすると、私はその翌日フラれた。
きっと彼にとって私は単なる性欲処理機だったのだろう。
拒否する性欲処理機ならいたって意味なんかないもんね。
それから約二年、私には彼氏がいない。
でもやっぱり常に好きな人はいた。
告白をしたこともあった。
でもその度にフラれて誰も私の彼氏になってはくれなかった。
でも私にとってそこは結構どうでも良くて、
“彼氏”というものに特別なこだわりがあるわけじゃない。
私はとにかくその人が好きで、その人にも私を好きになって欲しい。
ただそれだけだ。
極論、私のことが好きなら付き合ってくれなくたって別にいい。
でも“交際”という口約束は、お互いがお互いだけを好きでいるという誓いでもあるしその思いを確証してくれるものでもあるのだと思う。
向こうだって好きなら付き合いたいと思うはずだから、やっぱり彼氏彼女という制度は避けては通れない。
だからやっぱり、できることなら好きな人には私の彼氏になってほしい。
そんな私に誰かが男好きだと言ったけれど、別にそういうわけじゃない。
そりゃあその言葉をそのまま受け取るならば、私は男好きだ。
だって私の恋愛対象は女ではなく間違いなく男なんだから。
世の中の女の大半はそうであるのに、何を物珍しそうな口調で当たり前のことを言っているのか。
———…でも、それを言った人がそういう意味で言ったわけではないことはもちろん分かっている。
でもそれを加味して考えたって私は決して男好きではない。
だってその相手は誰でもいいわけではないし、彼氏がいる間に他の男の人に目移りなんてしなかった。
それにもっと言えば、好きになってしっかりフラれるまで私の気持ちが揺らいだことなんてこれまで一度もない。
私には私なりの一途があるのだ。
この証拠に、
「ナエちゃん!」
私は私のことが好きだと言っている人がいたってそう簡単にその人を好きになることもない。
「…なに?」
「ナーエちゃん、」
「だからなにってば」
「ナーエーちゃん、」
「どうせ用なんかないんでしょ」
食堂でうどんを食べる私の向かいに座るこの彼は私のことが好きらしいけれど、私は別に彼を好きではない。
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