第44話
「で、そっちは?なんでここにいんの?」
「…昨日転んだところがシャツから見えてたから隠したいの。…それでちょっと大きめの絆創膏をもらおうと思って」
「ふぅん…てか電気くらいつけろよ。暗くね?」
「絆創膏もらったらすぐ出るつもりだったから」
彼女がそう答えたと同時に、俺が脇に挟んでいた体温計の音が鳴った。
「早っ!最新かよ」
「見せて」
言われるがままにその体温計を彼女に差し出すと、何度だったのかは分からないけれど「熱はないよ」と言われてその体温計は片付けられた。
「でも体がだるいんだよな」
「低気圧のせいかもね。ほら、早く寝なよ」
彼女は早く向こうに行けと言わんばかりの言い方でそう言って、この部屋の奥にあるベッドを指差した。
「あー…うん」
そう言って立ち上がった俺は、ベッドではなく彼女の元へ歩いていくとそのまま真横にピタリとくっついた。
そんな俺に、棚を探る手をまた止めた彼女はゆっくりと俺を見上げた。
「……なに」
近いな…
てかヒナノってこんな小さかったっけ…
そんなことを思いながら、俺は彼女が探っている引き出しの隣の引き出しをスッと左手で開けた。
「…絆創膏ならたぶんこっち」
「………あ、うん」
すぐに俺の開けた引き出しに目をやり手を伸ばした彼女のその左手首を、俺はすかさず右手で掴んだ。
「っ、」
「転んだってどこ?見せて」
「いやっ、いいからっ、」
「よくないっしょ。俺に見せてみなよ」
そう言いながらその掴んでいた左腕を見てみたけれど、ケガらしきものはどこにもなかった。
「こっち?」
彼女の体の前に腕を伸ばすようにして今度は右手首を掴むと、彼女は一瞬だけビクッと体を震わせた。
彼女の言う“シャツから見えていた”その怪我は、俺の思っていたようなものとは全く違っていた。
「…え、これ?」
「……」
「どうやって転んだらこんなとこにこんなアザできんの?」
彼女の細い腕にあったそれは、転んだと言う割に擦り傷や切り傷ではなく赤紫になったアザのようなものだった。
俺のその反応に彼女は咄嗟に俺の手から腕を引き抜こうとしたけれど、俺はすぐに手首を掴んでいたその手に力を入れてそれを阻止した。
「どこで転んだの?」
「…階段、で、」
「うん」
「滑って、」
「うん」
「……」
「…え、で、これ?おかしくね?」
「……」
階段で滑って転んだならたしかに擦り傷にはならずアザになるかもしれない。
でも、手首と肘の間のその一部分だけがアザになるのはやっぱりおかしいと思う。
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