第43話
あれ以上待ったところで彼女の口から出てくる言葉に俺の望むものはひとつもない。
そうか…
アイツ男いんのかよ…
俺の周りで彼女のことを好きだと言っている奴はいなかったから俺はどこかで彼女のことを“俺のヒナノ”だと思っていたけれど、別にそういうわけじゃなかったんだな。
それからはなんだか俺のヒナノ愛もすっかり鎮火したようで、校内で会えば自然と目は行くものの前のようにわざわざ自分から声をかけたりはしなくなった。
そんなある日、なんとなく体がだるかった俺は四限は寝ようと思って保健室に向かった。
———…ガラッ
天気の悪い今日、電気もつけずにそこにいたのは俺の思っていた人とは違っていた。
「…あれ、なんでヒナノがいんの」
ついつい以前と同じ呼び方をしてしまったことに一瞬“しまった”とも思ったけれど、引くに引けなくなった俺はそのまま保健室の中に入った。
「…今水原先生はいないよ」
水原…あぁ、そうだ。
俺は保健の先生がいるとばかり思っていたんだ。
「へぇ…」
あの図書室以来話していなかったから、少しだけ気まずかった。
まぁとは言っても一、二週間くらいのことだけど。
「…で、ヒナノはここで何やってんの」
保健用具があるであろう棚の前にいる彼女に近付いてすぐそばの処置椅子に座った俺に、棚の引き出しの中を覗いていた彼女は「そっちはどうしたの」と質問を質問で返してきた。
「頭痛いから四限の間休みたくて」
「どうせサボりでしょ」
「失礼だなー。俺は嘘はつかねぇよ」
俺のその言葉に、棚の中を探っていた彼女の手が止まった。
「……」
「……」
“嘘はつかない”のその言葉に、俺が散々彼女に対して“好きだ”と言い続けていたことを思い出してくれたかどうかは分からない。
あれはもちろん嘘じゃない。
だからこそ、男がいるってなったってたった一、ニ週間くらいで好きじゃなくなるわけもない。
ヒナノ愛、全然鎮火してないわ…
「…俺今でも好きだよ、ヒナノのこと」
他に男がいてそいつと幸せならそれでいいとか、そんな思ってもいない綺麗事を口にできるほど俺は大人じゃない。
でも、彼女自身がそいつを好きなら仕方ないなとは思う。
久しぶりに口にした“好き”は、
「…はい、これ。とりあえず体温計りなよ」
そう言って体温計を差し出されたことによってなぜか簡単になかったことにされてしまった。
まぁそんなの今に始まったことでもないけど。
「はぁ……はい、どうも」
俺は思わずため息を吐きながらも差し出された体温計を受け取ってそれを脇に挟んだ。
てかたぶん熱はないと思うけど…
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