第41話
「え?それも川本に言われたの?」
「うん、そう」
「で、それにヒナノは何て言ったんだよ」
「そうですねって」
「いやすげぇバカじゃん!!」
「あははっ、ね。さすがにそれは自分でもそう思ったけど…でも私嬉しいよ。雑用でもなんでも人に何か頼まれるって必要とされてる気がするもん」
「…お人好し」
「頼り甲斐があるって言ってくれるかな」
それをそう処理できるのはある意味幸せだな。
聞いてるこっちは呆れるけど。
「はぁ…でもここに貼っても意味なくね?人なんかほとんどいねぇのに」
「うん…でもここにでも貼っとけばって教頭先生が言ってたらしいから」
「適当すぎるでしょ、あのハゲ」
思わず言葉を荒げた俺に、彼女は小さく「こら」と指摘するような言葉を口にした。
「ちょっと足いいかな」
俺の目の前に来た彼女は、そう言って俺の今座っている低い本棚に向かって体を屈めた。
「下りろとは言わないんだ」
「言ったって下りないくせに」
「まぁね」
きっと彼女は俺に座る位置をズレてほしかったんだろうけれど、俺はズレるわけではなく両足をガッと大きく広げた。
「…どっちかにズレてよ」
…やっぱり。
「これでも本は戻せるじゃん」
「はぁ…まぁいいや」
彼女は呆れたようにそう言って、俺の真下の本棚へとよりしっかりと体を屈めた。
その近さに俺は少し嬉しくなったけれど、その時あるものが見えて俺からはスッと笑顔が消えた。
———…は…?
「よし…もう足戻していいよ」
彼女はそう言いながらまた次の本を定位置に戻すべく、俺から離れてまた更に奥の本棚へと足を進めた。
俺はすぐに座っていた本棚から勢いよく飛び下りて彼女のあとを追った。
彼女が進んだ方へ俺も向かうと、彼女はすぐそこでまたさっきと同じように本棚に本を戻していた。
「…ねぇ、」
「なにー?」
「そういえば俺聞いたことなかったよね」
「何がー?」
さっきから一向に俺を見ず手元の本に夢中な彼女に、俺は思わず彼女の右手首をガシッと掴んで身を乗り出した。
「っ、」
突然のその行動に、驚いた彼女はハッとした顔で俺を見上げた。
「ヒナノって彼氏いんの」
質問であるはずのその言葉は、思わず語尾を上げ忘れてどこか責めるような口調になってしまった。
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