第32話

それから私達は、サークルの飲み会の有無なんて関係なく頻繁に会うようになった。


それは決まって夜だったけれど、私は何でも良かった。


そのままラブホテルに行くこともあれば、適当に喋って解散するだけの時もあった。



別に大学の中で会ったって先輩は私を無視したりはしなかったし、サークル内でだって私への察し方は以前と何も変わらなかった。



それから、彼が私にこぼす彼女の愚痴はより具体的なものになった。



「“飲み会だから迎えに来て”って言われてたから行ったら彼女俺のことすっかり忘れてもう家に帰ってたんだけど」とか、


「自分はラインを未読のまましばらく放置するくせに、こっちは既読つけるからって俺には返事が遅いとか言うんだよ」とか…



「———…大変そうですね」



“もう別れたらいいじゃないですか”と、


何度も口をついて出そうになった。







そんなある夜、



『今から会える?』



彼からそんなラインが届いた。



『大丈夫ですよ』



実家住みだった私は、親に車を借りて先輩の家へ向かった。


その道中、携帯を確認すると彼から『いきなりごめんね』とラインが来ていた。



そこには絵文字も何もなくて、いつもの彼らしくないそれに私はすごくモヤっとした。


きっと彼女と何かあったのだろう。


私の勘はそう言っていた。




彼の住むアパートの前に着くと、彼はすぐに家から出てきて助手席に乗り込んだけれどやっぱりいつものような元気はなかった。



「どうしたんですか、元気ないですね」


「うん…」



それからしばらくは沈黙だったけれど、



「人気のないところに移動できる?」



彼は遠慮がちにそんなことを言ったから、特別私にとって何か悪いことがあるわけではないのだろうと思った。


それならやっぱり彼女のことだろう。



私はすぐに車を少し移動して、近くの公園の駐車場に入った。


もう夜も遅いこともあり、駐車場には私の車しかいなくてもちろん人気なんて全くなかった。



エンジンを切って締め付けが気になったシートベルトを外すと、すぐに彼は私の後頭部に左手を回してキスをした。


あまりに突然で驚いたけれど、そのキスがいわゆる濃厚なキスだったから私はすぐに目を閉じて彼の舌に自分の舌を差し出した。


求められているみたいで、こうしたくて私は呼ばれたみたいで、なんだかとても嬉しかった。



彼のキスは煙草の味がして、それを味わうのは初めてでもないのに頭がクラクラした。


それと同時に気がついた。



…私、彼女と何かあった彼に嬉しいとか思ってる…

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