第31話

———…




「キスもしたことないなんて思わなかったよ」


私を抱き終えた彼はベッドに腰掛けて煙草を吸いながら、まだベッドの上にいる私の方を振り返ってそう言った。



「処女とか面倒くさかったですよね」


「そんなことないよ。むしろラッキーって感じ。…そっちは良かったの?相手俺で」


「はい…私はスワさんが良かったです」


少し照れながら、それでも私ははっきりとそう言った。


私が彼のことを好きなことがもう本人にもバレているならば、今更それを隠す必要なんてどこにもない。



「ありがとう」


彼は優しく笑ってそう言った。


それだけだった。



私はそんな彼を“ずるいな、”と思った。


私の想いを知っていてその上で私を抱いたというのに、じゃあこれから私との関係をどうするのかとか彼女との関係をどうするつもりなのかなんてことは何も言わずにただ“ありがとう”だなんて。



追求する権利は私にもあったと思う。


でも私は怖くて何も聞けなかった。



「…お願いがあります」


「ん?」


「また私を抱いてくれませんか」


今はきっと、このよく分からない立ち位置にしがみつくことしかできない。



「それって今からってこと?後日ってこと?」


それによってどう答えが変わるのかだって私には分からない。


でもそれを考える必要はない。



「…どっちもです」


どっちかなんて嫌だ。


もう私は止まらない。



私のその言葉に、彼は持っていた煙草を灰皿でぐしゃっと潰してベッドに乗り上げた。


何も言わずに私の布団を引き剥がした彼は、また優しく私を抱いた。

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