第13話

「うち来る?」


迷いなんて全くなかった。


「あー…うん」


それなのにちょっとだけ迷った風を演じつつ、私は彼にノコノコと着いて行った。





彼の家は小綺麗で、間接照明とかがあるようなおしゃれな部屋だった。


部屋全体が黒とかグレー系に統一されていて、自分の部屋の陳腐さとの差になんだか別世界に来たような気分だった。


「モテ男の家だ」


そんな皮肉を交えるような冗談を言えば、彼は「はははっ、」と軽く笑った。



「俺家具屋の仕事してるから割とその辺にはこだわってんだよね」


「あれ、そういえば何歳なの?」



ここに来て初めて、私は彼が四つ年上の二十六歳で家具屋さんに勤める人なんだと知った。


でも私がそこで得られた彼の情報はそれだけで、お互いここに来た目的は一つだけだったからその話は特に広がることもなかった。



「男の人なのに観葉植物とかまで置いてるんだ」


「まぁね」


「すごいなぁ。うちなんか緑とか全くな———…」


彼は、もう無駄話はいらないと言わんばかりに唇を重ねてきた。


「そろそろ部屋じゃなくて俺を見てよ」


彼はセリフまでもがモテ男そのものだった。


映画やドラマなんかで一度は聞いたことがあるようなそのセリフ。


そんなものにバカみたいにドキドキしながら私が「…だね」と言うと、彼は小さく笑ってまた私の唇を塞いだ。


お互いに立ったままで、彼は私の顔を上に向かせるようにくいっと顎を持ち上げるとより深く舌を絡ませてきた。



少し目を開ければ、私の視界には間接照明にほどよく照らされたセクシーな男の顔があった。


私はこの“男の顔”がたまらなく好きだ。


その顔が寂しさを埋めてくれていると言っても過言ではない。



そしてその顔に求められれば、大して知りもしない相手だろうと一夜限りの付き合いになろうとも、あとのことなんてもう全部がどうでもよくなってしまう。


「…酔ってる?」


「っ、ううんっ」


思わず甘えるような声になってしまった。


そんな私にも、彼は「可愛い」と言ってまた唇を重ねた。



キスをしながら私を左腕で抱き寄せて右手で私の服の裾から手を入れてきた彼に、私はこれでもかというくらいにドキドキした。


男の人ってすごい。


…いや、セックスという行為がすごいのか?


人が違うだけでこんなにも触れられる時の気持ち良さは違うのかと、私はその刺激に酔いしれながら思った。



「すげぇ濡れてるね」


「っ、久しぶりだからっ、」


「そっか。実は俺もなんだよね」


そこは割とどうでも良かった。


だって目の前の気持ち良さにこの人の最近のセックス事情なんて関係ないんだもん。

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