第12話
だって行為後にティッシュをゴミ箱に捨てようとした時、そこにはまだ新しそうな使用済みの避妊具がいくつか捨てられていたから。
この数日で他の女の子がもうすでにこの部屋に出入りしていたらしい。
でもそれは今に始まったことでもないのかもしれない。
私と付き合っていたときにも、彼は同じように他の女の子を部屋に入れて行為に及んでいたのかもしれない。
別れた今それを掘り返して怒る気になんてならないけれど、ただ不思議には思う。
単にセックスをしたいだけなら、わざわざそんなリスキーなことをしなくても彼女である私を呼べば済む話ではなかったのか、と。
でもまぁ彼のその“セックスをしたい”に“私以外と”という言葉が付くのならば話は別だけれど。
きっと彼はお酒を飲んでなんとなくヤリたくなって、そこで選ばれたのが使い勝手の良さそうな私だったのだろう。
それに今更怒りは湧いてこなかった。
私も久しぶりに一人になって寂しくなっていたところだったから。
ちょうど良かったよね、お互い。
寝息を立てる彼の横で、私は下着をつけて服を着た。
時計を見るとまだ時刻は二十二時にもなっていなかった。
これは泊まってもいいのか、帰るべきなのか…
やっぱり微妙な時間だ…
ここは彼の部屋なんだから彼に従おうと、私は気持ち良さそうに寝ている彼の肩を少し遠慮がちに揺すった。
「ねぇねぇ、」
何度目かのそれで、彼は「んっ…」と言いながら薄目を開けてこちらを見た。
「私さ、」
「あ、うん、…帰る?」
私はどうやら二択ではなく一択だったらしい。
「帰り気をつけてな」
この部屋に来てたった三十分。
恋人でも友達でもない私は、知らないうちにどうやらそのどちらにも当てはまらない新しい立場を手に入れていたようだった。
「うん、じゃ」
私はそれだけ言うと、数日前と同じように大して多くもない荷物の入ったボストンバッグを片手に彼の部屋を出た。
まぁ気持ち良かったし寂しさも紛らわせたからこれはこれでいいかな。
私も私で都合が良かった。
まぁもう少しゆっくりしたいところではあったけれど…
それから二週間。
その間、元カレからの連絡は一度もなかった。
私は寂しいな、と思った。
男の人特有のゴツゴツと骨張ったその手だとか、女よりも少し太いその指だとか、うんと見上げなきゃできないキスだとか、その時に抱き寄せられる力加減だとか、
もうその行為の全てが私は恋しかった。
そんな寂しさを紛らわすために、私は似合いもしないクラブへと出向いた。
私が恋しかったのは“元カレ”じゃない。
この寂しさを埋めてくれるのもまた、“元カレ”でなきゃいけない必要性はまるでない。
ただ、“男”でなければならなかったとは思う。
キラキラとフロア内が照明で照らされる中、その隅で私はちびちびとお酒を飲みながら自由に踊る人達をひたすら眺めていた。
「一人?」
声をかけてください感満載な今の私は、ここにいる男の人の目にどう映っているのだろう。
「うん、一人」
一番初めに声をかけてくれたその人は、私よりは背が高いけれど元カレよりは少し低くて、その上元カレよりも少し筋肉質な男の人だった。
「可愛いね」
そんな一言で、私はなぜか気を許した。
本音を言えばこの人じゃなくてもよかった。
誰でもいい。
誰でもいいから、抱いてほしかった。
そんな夜だった。
でも、彼はきっと私でなければならなかったんだと思う。
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