第11話

週に三回ほどお邪魔して月に二度ほど泊まる程度の私の荷物はさほど多くはなかった。


初めて泊まりに来た時に持ってきてそのままにしていたボストンバッグに、私はその大して多くもない荷物を詰めた。


彼はやっぱりいつも通りの顔で私を気にすることなく雑誌を読んでいた。



こういう場合は何と言って家を出るべきなのだろうか。



「お邪魔しました」


彼の恋人でもなくたぶん友達でもない私は、自分の立場をしっかりと弁えた上でその言葉を選んだ。


「はーい」


彼は最後の最後まで軽かった。



たしか付き合い始めた時も軽かったよなぁ…なんて、八ヶ月前のことをぼんやりと考えながら私は自分の家へと帰った。






それから数日が経った今、私はまたあの日の彼の言葉を聞き間違いだったのかと疑い始めている。


それは彼から来た一通のラインだった。



『今日うち来る?』



「…え?」


一人の部屋で、思わずそんな言葉を溢してしまった。


恋人でも友達でもない今の私が彼の家に呼ばれる理由って一体何なんだろう。



でもなんだかやっぱり軽い彼らしいその文面に、私は妙な懐かしさを感じながら『うん』と返信をした。



時刻は二十一時。


泊まるにしては微妙な時間だ…


でも今日中に帰らせるにしてはその誘いは遅い気がする。


私は念のためにあのボストンバッグに一泊分の荷物を詰めて家を出た。

















「っ、はぁっ、はぁっ、…」


「上下に動いて…」


「はっ……うんっ、」


「っ、ん、そう…すげぇ気持ちいいっ…」




…ま、そうなるよね。




彼に跨る私の腰を掴んで甘い息を漏らしているこの私の元カレは、私を部屋に迎え入れるとそのまま抱き寄せて私にキスをした。


そのあとてっきり“やっぱり別れたくない”とか“まだ好きだ”とかの言葉が来るのかと思っていたけれど、彼はいろんなことをすっ飛ばして「我慢できない」と言った。


もちろんそうなる覚悟があってのこのボストンバッグだったし、私は素直に「うん」と言って欲をぶつけたがっている彼に足を開いた。




行為が終わると、彼はすぐに寝息を立て始めた。


ベッドの目の前にあるテーブルの上にはお酒の空き缶が数本置かれていた。


酔ってたのか…キスしたけど私全然気付かなかったな。



私がいない寂しさを埋めるためにお酒を飲んで、その寂しさに耐えられなくなって私を呼んだんだ。



———…なんてことは、もちろん思わないよ。

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