第10話
二十二歳、
私は八ヶ月付き合った彼氏に先週フラれた。
「別れよっか」
理由はよく分からない。
いつものように彼の部屋で適当な時間を過ごしていた時、お腹空いたからコンビニでも行くか、みたいなノリで別れを切り出された。
だから私は、一瞬聞き間違いかと思った。
あれ?昨日の夜と、それから今朝も私達ヤッたよね?…と、私は思わず自分の下半身に意識をやった。
昨夜だけならまだしも、今朝の行為を済ませてからはまだ四時間ほどしか経っていない私の体にはまだしっかりと彼が入っていた時の異物感が残っていた。
異物感なんて言えば失礼な気もするしそれを受け入れたのはもちろん私だけれど、あれは異物で間違いない。
だって女の私にはないものなんだからさ。
「えっと…あー…」
思わず言葉を失った私は、朝の行為の始まりの流れを頭の中で思い出していた。
たしかベッドで並んで寝ていて、昨夜の流れで下着しか身につけていなかった私に彼が擦り寄って来てそのまま下着に手を入れられたんだったな…
その時の対応に何か原因があったのかとも思えたけれど、彼のその言い方は軽いにもかかわらず前から決めていたみたいな揺るぎなさを感じたから、もうなんだか驚くのも変な気がして私は「うん」と返事をした。
「帰る時間は気にしなくていいから」
その言葉に、私はさっきの言葉が聞き間違いじゃないことを悟った。
今は十四時。
これまでの私達を思い返せば、まだ帰るには早すぎる時間だ。
それを今言うってことは…
…そうか、
別れてしまった今、私がここにいる理由なんて何もないんだ。
彼は口では“気にしなくていい”と言ったけれど、できることなら早く帰ってほしいのだろう。
…にしても軽いよね、軽すぎる。
だってその彼、開いていた雑誌を見ながら私に別れを切り出したんだもん。
別れる時に目も見てもらえない彼女って何なんだろう。
…いや、もうその瞬間から私は彼の彼女じゃないんだけどさ。
それなら目を見てもらえないこともおかしくはないのか?
いやでも話し合いの時間はまだかろうじて彼女だよね?
いやでも私たちに話し合いは生まれなかったから———…
…いいや、
もう帰ろう。
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