第4話

彼が私の元へ通い始めて四ヶ月が経った。


「今更だけどなんで学ラン?」


本当に今更すぎる質問に彼も“え?”みたいな顔をしていた。



それから聞いた話で、私はここに来て初めて彼が転校生であることを知った。


考えてみればそりゃそうだ。


他所の言葉を使うし制服が違うんだから、本人に聞く前に察すれば良かった。



でもどうしていつまでも学ランのままなのかと彼に問えば、彼は「なんかネクタイって気取っとるみたいでダサいやん」と言っていた。


その気持ちは私には全く理解できなかったけれど、割とどうでもいい上にその言葉はネクタイを身に付けている私への侮辱に当たるような気がして私はそっけなく「へぇ」と適当な相槌を打った。



「あれ?怒ったん?」


「まさか。別にどうでもいいし」


「まぁそういうとこも好きやで」


そう言って笑う彼に、私はやっぱり“バカなんだなぁ”と思った。




そんなある日のことだった。



帰り際、彼は言った。



「なぁ、俺のどこがナシ?」


「ナシなんて言ったっけ」


「じゃあアリなんか?」


「ううん」


「じゃあナシやんけ」



彼のその言葉に、“あ、そっか”と私はなぜか納得をした。



だってアリじゃないならそれはナシだし、


イエスじゃないならそれはノーで、



「せやからどこがナシなんか言うてみぃや」


「……」


「ナシじゃないって言うならじゃあお前、俺と付き合うんか?」



“うん”じゃないなら“ううん”でしょう。



「…ううん」



彼はいつになく真剣な顔で「はぁ、」とため息を吐いた。


「好きな男おるん?」


「ううん」


「じゃあ付き合えん理由があるん?」


「ううん」


「じゃあ、俺のこと好き?」


「……」



思わず黙ったのはどうしてだろう。


彼はそんな私にフッと口元を緩ませると私の手首を掴んでそのままこちらに一歩近付いた。


「もうお前とっくに俺のこと好きやろ」


「え?」


「簡単に認めたくないだけやん。なんでそんなくだらん意地張っとんねん」



次の瞬間には唇が触れ合っていて、私は思わず持っていた鞄を振り上げてその頭をぶん殴った。



「いっったぁ!!何すんねん!!」


「そっちが何してんのよっ…!!」


「何ってそん———…」


彼は私の顔を見て言葉に詰まった。



彼が黙るのも無理はない。



私の目には今にもこぼれ落ちそうなほどの涙が溜まっていて、唇は恥ずかしいくらいに震えていたから。

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