誕生!! 魔法少女ジューシーミカン 2

 翌朝――。


「それじゃー雪丸、わたしは出かけるから……その間、大人しく待ってるんだぞ☆彡」


 わたしは玄関でペットに待ての合図をする。


「おいちょっと待て! どこへ行く?」


「決まってるでしょ? 今は春休みなんだから遊びに行くんだぞ☆彡」


「出かけるならオレも連れていけ」


「もうしょうがないなあ。そんなにわたしとお散歩に行きたいんだったらそう言えばいいのに……このツンデレさんめ☆彡」


「犬扱いするんじゃねーよ。オレはある場所に隠したカードを回収しに行きたい」


「カード?」


「そう、魔法のカードだ」


 雪丸の言うカードには力が宿っていて、とんでもない魔法が使えるようになるらしい。それをある場所に隠したんだって。


「なにそれ!? ちょー便利そう! ふ、ふ、ふ! ついに来ちゃったかな? わたしの時代が――」


「お前、悪用する気満々だな。絶対お前には渡さないからな」



 ◇ ◇ ◇



 森林公園にやってきたよ。


「割と近所だったんだね」


「別にいいだろ。ここが最適だと思って隠したんだから」


 雪丸はきょろきょろと辺りを見渡す。


「確かこの辺りに埋めたはずなんだが……そう、確かここだ」


 雪丸は地面を掘り起こす。でもカードらしきものは出てこない。


「ワンちゃんって自分で隠して分からなくなることってよくあるよね。わたしはそういうのとても可愛いと思うよ。うん」


「だから犬扱いするな……でもおかしいな。絶対ここのはずなんだが……」


 その時、とても下品な笑い声が聞こえた。


「あはははは。お探しの物はこれかしら?」


 声の主は真っ赤なドレスを着ていて、とても気の強そうな女の人。


 そのお姉さんはカードを見せびらかすように持っていた。


 …………。


 「ねえ雪丸まだー? わたしもう飽きてきちゃったんだけどー」


 さっきからずっと同じところを掘っている犬にわたしは思わず帰りたいオーラを出す。


「言っただろ、あれは大事なカードだって。見つからないとマジでヤバいんだから」


 雪丸が答える。


「そこのお嬢さん達、探し物はこれかしら?」


 向こうにいるドレスのお姉さんはとりあえず無視。


「あ! 雪丸見て見て! こんな所にアリの行列がいるよー」


「おい、そこのガキ! いい加減、こっちの話を聞け!」


 とうとう本性をあらわにするお姉さん。その時――。


「お! あったあった。これだこれ! オレが探していたカードだ!」


「え? あったの?」


「ああ! 間違いねえこれだ!」


 なんということだ。


 わたしはてっきり「くそう、先をこされた!」


 って言わなきゃいけないのかと、覚悟を決めていたというのに……。


 わたしはお姉さんをチラ見する。なんだか気まずそうだ。


 わたしは雪丸に耳打ちする。


「ねえ、だったらあのお姉さんが持ってるカードは何?」


「あれはオレ(犬の姿)の生写真ブロマイド。つまりブラフだ。とりあえず仕掛けておいて正解だったぜ」


「じゃあだね」


「くだらねえよ!」


 すると、お姉さんと目が合った。


「……」


「……」


「それじゃあ、わたし達……帰るね」


「ふざけんな! そのカードをこちらに渡しな! 塵旋風じんせんぷう!!」


 お姉さんが呪文を唱えると、巨大な砂埃の渦がわたしと雪丸を飲み込んだ。



 わたしと犬の雪丸は空中でぐるぐるかき回される。



「あぁあぁあぁあ~!!」



 そのまま地面に叩きつけられた。



「ぐわああああ!!」



 地面にぐったり横たわる雪丸をお姉さんが蹴り飛ばす。


「この犬が! 私をはずかしめやがって――」


「ぐはあああ!!」


 何度も何度も雪丸を踏み潰す。


「あはははは! このクソ犬が……我々、協会を出し抜こうったってそうはいかないわ!」


 とうとう動かなくなった雪丸。


「もうやめて! 雪丸にひどい事しないで!!」


 わたしは思わず叫んだ。


 お姉さんはこちらを睨む。


「そこのガキ! 次はあんたの番だ!」


 わたしは背筋が凍るような恐怖を覚えた。


 逃げなきゃ!


 でも身体が動かない。


 もうだめだ。


 意識もだんだん遠のいていく――。


 その時。


 脳内に誰かの声が聞こえてきた。


 (お困りのようですね。私の力を授けましょう――)

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