第48話

私の音楽に心打たれてる奴がいる。




「ほんとに辞めんの?」


「……」


「もっかい書いてみれば? 切ない系とか意識して書くんじゃなくて、ぴあのが思ってることそのまんまさ。誰でもいーから、家族とか友達とか、大切な人でもテーマにしてそのまま書いてみりゃいいじゃん。案外書けるかもよ。」




そのまま、か。




「あ」


「え、なに。」


「なんか書けそうな気がしてきた! 帰る!」


「帰るって、まだ雨──」




マグカップをテーブルに置いて、玄関に走る。




「おい、ぴあの」


「なんか湧いてきたかも! ありがと!! あ、あとこの前酷いこと言ってごめん!! じゃ!! 服は今度洗って返す!!」


「お前の服は!?」


「そのうち取りに行く!!」




呆気に取られる晴都を置いて、走って家に帰る私。外は土砂降りだけど、心の中は晴天だ。青空が広がるみたいに、言葉が湧いてくる。



バラードだからとか、切ない音楽とか、変なことにこだわりすぎてた。いつだって言葉が音楽を紡いでくれる。だからそのまま書けばいい。バラードどうこうなんてその後考えればいい。



ああ、なんだか楽しくなってきた。楽しい。こんな気持ちは久しぶりだ。

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