第41話

冷たい雨の音は、濡れた服が身体に張り付いてさえいなきゃ心地よかった。雨の匂いは嫌いじゃない。



そういえば、『Rain』ってタイトルの曲があったな。今回のアルバムには入れなかったっけ。



ああくそ。未練たらたらじゃないか。




「──ぴあの? 何やってんだよ。こんな天気に傘も差さないで。」




……なんでよりによって今コイツに会うんだ。私は2度目の挫折を味わってんだよ。



ていうか、私はこの前奥村晴都に理不尽な悪態を言って以来、謝ってないのに。




「風邪引いたらどうすんだよ。」




怒りもしないで、私に傘を差す晴都。今さら差したって、とっくにびしょ濡れなのに。それじゃああんたが濡れちゃうじゃん。




「とりあえず家まで送るよ。」


「……今母さんがレッスンしてるから帰りたくない。」


「静凪さんと喧嘩した?」


「してない。今はピアノの音も何も聞きたくないだけ。」




放っといて。そう言おうとした私に、




「じゃあ、俺ん家来る?」




晴都は真顔でそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る