第39話

音楽なんか辞めてやる。何度だってそう思ったじゃないか。こんな思いをしてまでやらなきゃいけない必要なんかない。両親が音楽家だからって、私まで音楽に生きなきゃいけないわけじゃない。



普通に仕事して、普通に生きて、普通に死んでく。それでいいじゃないか。自分を音楽で表現するなんて、そんなのしなくたって生きていける。それでいいじゃないか。



弦を拭いて、ボディを拭いて、丁寧にメンテナンスしてからケースに片付けた。もう弾かない。だから、今までありがとうっていう意味で。



店長からは、何かあったのかって聞かれた。なんでもないって答えた。もうここに来ることもなくなるだろうけど、最後の挨拶をしようという気持ちにはなれなかった。



終わりなんていつだってこんなもんだ。きっかけなんてちっぽけで、唐突で、呆気なくて。



私たちはここまでだった。ただそれだけのことだ。

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