第38話

不毛な言い争いをするために集まったんじゃない。学校の教室なら誰かが止めてくれたかもしれない。店だったら店長が止めてくれたかもしれない。けどここは、爆音を鳴らしても外に聞こえることのない防音室で。



誰がこの喧嘩を止められただろうか。




「…………もうやめようか」




そう言ったのは、3人の中の誰だったろう。それは、何に対する「やめる」だったろう。



喧嘩か、練習か、それともこのバンドそのものか。



その言葉をきっかけに、私たちは言い争いをやめて片付け始めた。



一番最初にさっさとドラムを元の位置に戻してはなびが出てった。



その次に、いつもなら丁寧に片付けるギターを適当にケースに入れて、つきまが出てった。



残された私は、やるせなくて、どうしようもない怒りをどうにかしたくて、このベースを床に叩きつけてやりたくなった。



本当にそうしてやろうかとベースを掴んだけど。



「楽器は“なまもの”だから大切にしなさい」と両親に言われてきた私に、相棒を傷つけることはできなかった。



だから代わりにそれを抱いて、音楽なんか辞めてやるって、そう吐いた。

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