第34話

「……そりゃあんたは千年に一度の天才ピアニストですもんね。必死に練習なんかしなくたって公演くらい余裕か。」




完全に八つ当たりだった。でも、一度言い出してしまうと止まらない。




「けど私はあんたと違って凡人だから? 私生活の時間削んないと仕事できないの。心配されても鬱陶しいだけだから話しかけないでくれる? そもそも、初めて会った時からあんたなんか大っ嫌いなの。顔だって見たくない。なんでオーストリアから戻ってきたわけ?」




奥村晴都に良い印象を持ってないのは本当だけど、今の私の悩みに関して晴都はまったく関係ない。そんなこと分かってる。でも止められなかった。



晴都に何か言われる前に、逃げるようにその場から立ち去る。



私って最低だ。バラード1曲作れない自分の無力さごときで関係ない人に悪態ついて。挙句の果てに逃げるなんて。

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