第3話

あの日以降、私はどうしても奥村晴都に勝ちたくて、アイツを見返してやりたくて、母の英才教育を耐えて耐えてピアノ漬けの日々を送ったのに。



あの6年間、一度もアイツには勝てなかった。誰も、奥村晴都には敵わなかった。



なんでってそりゃあ悔しかった。なんであんな、自分の才能を鼻にかけて努力もしない奴に負けんのよって。



ううん。晴都が本当にそんな奴だったらよかった。そんな奴だったら、私は絶対折れなかったのに。



偶然見た、アイツが練習してるところ。ただひたすらピアノに向き合って、気が狂ったように弾いていて、なのに楽しそうで。



勝てない。無理だ。こんな人に敵うわけがない。



よわい12歳で味わった挫折と絶望。魂が抜けたようにピアノが弾けなくなった私に、母は最初の方こそ続けさせようとしてたけど。



小学校を卒業する前にピアノはやめた。その頃に奥村晴都がオーストリアに行ったのもあって、コンクールで私たちが会うことはなくなった。

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