第73話

「芽衣胡様っ!」

「伊津? 伊津ね!」

「はい。1週間振りでしょうか?」

「ええ」


 華菜恋との入れ替わりからすでに1週間が経過していた。元の生活に戻った芽衣胡はまた光明寺でお世話になっている。


「元気だった?」

「はい」

「華菜恋も元気?」

「お嬢様は、……あまりお元気がなくて」

「そうなの? 心配だわ。やはり元に戻るべきではなかったのかしら……」

「……芽衣胡様もお元気かなと心配でしたが、お元気そうで安心いたしました。今日も、榎木さんに振り分けられたお遣いに出ていたのですけど、『芽衣胡様はどうしていらっしゃるかな』と思ってる内にこちらまで足が延びていたのですよ」

「そうなの? わざわざありがとう。嬉しいわ。ねえ伊津?」

「はい?」

「その……證様はどうされてる?」

「ああ……、ええと、そのですね、実は入れ替わった事が早々に暴かれてしまったようでして」

「えっ? 大丈夫なの?」

「今の所、證様と榎木さんの心に留めていてくださっているようで、他の方には気付かれておりません」

「そう」

「ですが榎木さんは芽衣胡様を探しているようです。先日も『偽物はどこ?』と聞かれまして、偽物なんて酷い言い方だと思いませんか? だから腹が立って言い返す所でした。でも安心してください。芽衣胡様の居場所は言ってませんので」

「伊津、もしまた偽物と言われてもわたしのために腹を立てないで欲しいわ。わたしは華菜恋の影。表に出ることを許されないのだから、偽物で上等よ」


 芽衣胡は伊津がお茶を飲み終わるまで、華菜恋のことと證のことを聞いた。


「わたしのことは心配しなくていいわ。だから伊津お願い、華菜恋のことを頼むわね。よろしくね。お願いね!」

「もちろんです。お任せください。誰にもお嬢様を殺させはしません!」

「伊津だけが頼りよ」


 頷く伊津に、芽衣胡も頷き返す。


「……ではそろそろ戻らないと」

「華菜恋の側にいてあげて」

「はい。また来ます」


 芽衣胡は門まで伊津を見送る。しかし光明寺の敷地を出た伊津はその足をすぐに止めた。

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