第66話
約束の時間に華菜恋を迎えに来た證は、華菜恋の姿に違和感を覚える。
化粧をしているせいだろうか。無垢な少女はそこにはいない。
よく似合うだろうと華菜恋のために急いで仕立てたドレスは全く、
「似合っていない?」
「失礼ですわよ」
心の声が出ていたのかと、口を押さえる。
「すまない」
――だが、何が違う? そうだ、顔がいつもより白いのだ。
「白粉を付けているのか?」
「当たり前ですわ。今日は誰もがわたくしたちを見て来るのですから、いつも以上に美しくする必要がございます」
「なるほど」
日焼けした肌に合うと思って合わせた色も、白粉のせいでぼんやりとした印象になってしまった。
だがその印象を覆すほどに品が漂って見えるのは、ドレスを纏ったお蔭なのだろうか。
「不思議だな君は」
ドレス一枚で女性はこうも変わるのかと感心さえする。
背筋は伸び、指先は気品ある令嬢のように魅力が溢れ……。
――指? 指が違う?
いや、まさか……。
昨晩、華菜恋の手を撫でていた時はまだまだ小枝のように細いと感じていたのだが、まさかひと晩で指が太くなったのか、と證は真面目に考えた。
しかし答えの出ぬまま、榎木が「遅い」と迎えに来てしまった。
「ほら、主役が遅刻してしまいますよ。急いでください。……ああ、華菜恋様、今日は一段とお美しいですね」
「ええ、そうでしょう」
華菜恋のその返答に證と榎木は首を傾げた。
いつもの華菜恋であれば、「いえ、そんなことありません。わたしなどが美しいなんて、ないです」とそう答えるはず。
また考え込みそうになっている證の耳元に口を寄せた榎木は「緊張されているみたいですね」と囁いてから、さあ出発です、と明るい声を出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます