第64話
就寝時間となり、ともに寝室に入る。
これが最後の共寝になるのかと思った芽衣胡の胸が息をするのも難しいほど苦しくなる。
「どうした?」
芽衣胡の変調を敏感に悟る證。明日のパーティーを前に緊張しているのだろうと思った。そんな證も緊張していた。
「眠れぬか?」
「いえ」
仰向きになっていた芽衣胡はころりと横になり證の方を向く。
「子守り唄が必要か?」
芽衣胡が望めば何でも叶えてくれそうな気配に、芽衣胡は望みそうになる。
――初夜のようにもう一度、口付けをして欲しい。
證は初夜以来、寝台の上で芽衣胡に触れることはなかった。
接吻を望むなどはしたないと思う。そして接吻をしてやや子を身籠ってしまってもいけないと、その願いは断念した。
芽衣胡は證の嫁ではない。嫁ではない人間が證の子を身籠るなどあってはいけない。
だが最後に證をもう少し近くに感じたいと、芽衣胡は勇気を出す。
「て、……手を握ってはいただけないでしょうか」
「手か?」
證は大きな手を掛布の中から出すと芽衣胡の小さな手をそっと優しく包む。
「細いな。まだまだたくさん食べさせねばならぬようだ。私が強く握れば折れそうだ……」
愛しそうに證の指が芽衣胡の手の甲を撫でる。
「私の望みも叶えてくれないか?」
「證様の望み?」
「君に触れたい……」
「? 触っておられますよ?」
いまだ證の指が芽衣胡の手の甲を撫でている。
「ふっ、そうだな……。それでは抱き締めさせてくれ」
「だっ!?」
驚く芽衣胡の声はすぐに證の胸によって塞がれる。
――なっ、なっ、なーーー!!!
證の匂いに頭がくらくらする。頭が熱い、身体が熱い。
芽衣胡の背中に證の腕が回ると芽衣胡の身体は緊張して固くなる。
トクトクトク、と聞こえるのは證の心音。自分の心音はトットットットッと少し早い。
「君からいい香りがする」
「そっ、それは、おっ、お風呂の、せ……石鹸が、とってもいい匂い、だから……」
「それなら私も君と同じ匂いがするのか?」
そう問われて芽衣胡は反射的にすんと證の胸の匂いを嗅いでみる。
「同じか?」
「ええと、同じかは分からないのですが、……くらくらする匂いがします……」
「ふっ、そうか」
そう言った證の腕の力が強まり、ますます芽衣胡の頭がくらくらする。
「もっとくらくらして……、もっと――」
證の低い声が芽衣胡のお腹の奥に沁みていくと、芽衣胡の心臓が跳ねた。
――この体勢は困るけど、だけどずっとこのままでいたい。
そんな芽衣胡の胸の内を叶えるように證の腕はひと晩中、芽衣胡の細い身体を包んでいた。
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