第58話
その晩、芽衣胡が寝室に入ると證は寝台に座って紙の上に視線を走らせていた。
證と同じ寝室、同じ寝台で寝ることはまだ慣れそうもない。
それに今日は眼鏡屋で「寄るな」と證に拒絶されたばかり。その後の百貨店での態度はいつも通りだったが、また拒絶されたらどうしようかと芽衣胡は悩む。
寝室の入口で佇む芽衣胡が動く様子もないので證は「どうした」と声を掛ける。
「あの……」
「こちらに来なさい。今日は連れ回して疲れただろう。早く寝るといい」
證は芽衣胡の寝る場所を示すように、とん、と叩く。
「はい。失礼いたします」
寝台の端に横たわるが、證の視線は未だ紙の上。
「それはお仕事なのですか?」
純粋にそう思った芽衣胡だが、声に出してみるとまるでまだ寝ないのかと嫌味を言っているように聞こえてしまった。
「あの、えっと……」
「パーティーの出席者だ」
「ぱあてー?」
聞いたことはあるが芽衣胡には無縁だと思っていた『パーティー』をきちんと発音出来ず恥ずかしくなる。
「君と結婚したことのお披露目だ」
「はあ」
「女学校でダンスの成績は良かったと聞いている」
「へ?」
「ん?」
華菜恋が女学校に通っていた時のことで、自分のことではないと芽衣胡は誤魔化す。
「はい。そう(みたい)です」
「パーティーは10日後だ」
「そうなのですね」
「間に合うようドレスも仕立てる」
芽衣胡の目と口が開く。
「え?」
「君と私が主役だ」
芽衣胡の口がまるで池から顔を出す鯉のようにはくはくと震えていた。
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