第53話

「これは……お箸?」 

「使い過ぎて使い過ぎて、短くなった儂愛用の箸じゃ!」

「ほんと、短いわ!」

「華菜恋、感心する所ではない」

「申し訳ございません」

「いや。それよりおやじ、この後も予定がある。早く妻に合う眼鏡を出せ」

「睨むな坊」

「睨んではいない」

「お嬢ちゃんが眼鏡つけたら、お前の怖い形相に泣き出すんじゃないのか?」

「むむ」


 眉を寄せ、一際怖い鬼の形相となった證がちらりと芽衣胡を見やる。


 外の世界をたくさん見せて笑顔にしてやりたいと思ったが、自分の顔を見て泣かせてしまうかもしれないのか――と思った證は逡巡した。


 しかし證が眉を寄せ考えている間に店主は勝手に商売を再開していた。長年の経験と勘で芽衣胡に合う眼鏡をいくつか出し、本人の了承もなく着用させる。


 芽衣胡の目と、外界の間に眼鏡が入る。ぼんやり見えるのが常だった外界は、眼鏡を通したことで少しだけ輪郭が見える世界に変わっていた。


「わぁっ!」


 まず芽衣胡の目に映ったのは店主の頭。つるつると禿げているのかと思ったが、白い毛が寂しげに数本生えているのが見えた。


 ――このように見えるようになるなんて、なんて素晴らしいのっ!!


 感動のまま、この感動を伝えようと後ろを振り返る。證に「見える」と伝えたい。

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