第50話

「こちらにいらっしゃいましたか。おはようございます」

「ああ」

「おはようございます榎木さん」

「おはようございます華菜恋様」


 證よりも少し高くて爽やかな声音。


 ――だけど榎木さんがわたしを『華菜恋』と呼んでも悲しいと思わないのは、どうして?


「お二人で朝の散歩ですか?」

「ああ。……そうだ榎木、聞いてくれ」


 證の嬉しそうな声がお腹の奥に染み込んでいく。


「キャラメルの少女はやはりいたのだ」


 初めて聞く、證の弾んだ声。


「證様が落ち込んでいた時にキャラメルをくれた天女の子どもですか?」

「ああ!」

「どこに?」


 ここに、と言いながら證は芽衣胡の肩を抱き寄せる。


「華菜恋様が? まさか?」

「いや、間違いない」

「確信があるのですね?」

「ああ」

「なるほど。初恋の君が自分の奥方になっていて舞い上がっていらっしゃるのですね」

「榎木っ!?」


 立ち上がった證が榎木に詰め寄る。

 主従というよりどこか兄弟のような雰囲気を感じながら、しばらく二人の軽い言い合いに芽衣胡は耳を傾けた。

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