第48話
離れの前庭に出ると草木に朝露が降りている。
「そこに座るか」
證の指すそこがどこなのか理解出来ないものの、芽衣胡の手は未だ證の大きな手の平に包まれているので、證が進むままの方向へ同じように芽衣胡も進む。
足を止めた證が何かに腰を下ろしたことがぼんやり見えた芽衣胡はそのすぐ隣に腰を下ろす。どうやら岩のようだと芽衣胡は感じた。
繋がれた手が強く握られる。
「小さい」
「え?」
「貴女の手」
上からもう一つの手が重ねられ、枯れ木のような指と手の甲をつうと撫でられる。
芽衣胡はこの自分の手が乾燥しあちこち赤切れしていることを思い出し、途端に恥ずかしくなった。
「やめてください」
羞恥に思わず握り込む。
「恥ずかしいのか? 耳が赤い。だがそう強く握り締めるものではない。手の平に爪が食い込むだろう」
そう言うと證は芽衣胡の手の平の中に指を入れてゆっくりと拳を開いていく。芽衣胡の手の平が空に向かう。
「これは……」
證の声が止まる。
證の視線がどこに向いているのか分からない芽衣胡は證が何を見ているのか分からなかった。
「證様?」
しかし考え事が続いているのか證からの返事はない。
風がさわさわと木の葉を揺らす音が芽衣胡の耳に届く。山際が明るくなっている。そろそろ使用人が起きる時間だろう。
日が出たのか、芽衣胡の視界が一気に眩しく染まる。
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