第47話

「ん……、起きたのか」


 仰向きで寝ていた證が横を向き、薄く開いた目で芽衣胡を捉えた。


「早いな」

「おはようございます、證様」


 欠伸混じりに「ああ」と返事しながら證は身を起こし、時計を見る。


「なんだ、まだこんな時間か」


 使用人もまだ寝ているだろう。


「もしかして眠れなかったのか?」

「いえ」

「そうか。それなら少し庭に出よう」


 もう一度欠伸をしながら證は寝室を出る。そして足を止め、振り返る。


「来なさい」

「わたしも?」

「ああ、君も」


 芽衣胡は声の方へと足を進める。

 銀鼠の浴衣を着ている證は暗い室内に溶け込んでいる。ただ部屋の間取りは理解していた芽衣胡は寝室の扉まであと六歩ほどだと感じていた。


 ――ひい、ふう、みい、よお、いつ、


「むっ」

「おっと」


 證の胸にぶつかる芽衣胡を證が右手で抱きとめる。


「君は……」


 何かを言いかけて止める證に、芽衣胡は謝る。


「申し訳ございません」

「危ないな」

「すみません」


 危なっかしくて目が離せないとばかりに證は芽衣胡の左手を握った。


「行くぞ」


 引っ張られるままに芽衣胡は足を進める。だが歩きにくいとは思わなかった。引っ張られた芽衣胡が一歩を踏み出してから證も次の一歩を出す。


 證の気遣いと優しさを感じた芽衣胡の胸が苦しくなった。

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