第43話
しかしスプーンの扱いにまだ慣れておらず、ぼんやりとしか見えていない芽衣胡には散らばった米粒を集めるのに四苦八苦する。
「貸しなさい」
見守っていた證も、これは、と思ったのか芽衣胡のスプーンと皿を取り上げた。親が幼子にするように、證は芽衣胡の食事を手伝う。皿に残るオムライスの欠片を集めて全てスプーンに乗せると證は口を開くようにと求める。
「口を?」
「大きく開けなさい」
拒否できるはずもなく芽衣胡は口を開いた。そこにスプーンの先が入ってくる。口を閉じるとスプーンが引き抜かれた。
羞恥に頬が熱くなるのを感じながら芽衣胡は最後のひと口を味わうことなく嚥下する。
「まだ何か食べたいものがあるなら遠慮なく言いなさい」
「いえ。お腹いっぱいです」
芽衣胡は帯の上から胃を押さえる。帯がきつくて胃が苦しい。適量は半分以下だったと思いながら完食した自分を褒めたい気持ちになる。
「無理をせずとも残せばいい」
「出していただいた食事には感謝していただかないといけませんから。ひとかけらだって粗末に出来ないですよ」
「そうか……」
證は何かを考えるように顎に指を置くと、納得したようにひとつ頷く。
「帰るか。それとも別に行きたい場所があるか?」
「このような夜半に? どこに行くというのです?」
食事をするため外出したのにも驚きの芽衣胡には夜という時間帯に行きたい場所など思い浮かばない。
「そうだな、では明日にしよう」
「明日? 明日も外に出掛けるのですか?」
「嫌か?」
「いや、……ではないです……」
主人に向かってはっきり嫌と言えず、明日の予定が決まった。
今日のところは終わりだというように證が帰るぞと促す。来た時同様エスコートされて店を出て、近くで待っていた自動車に乗る。
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