第42話

「お待たせいたしました」


 男性の声と一緒に食欲を刺激する匂いが運ばれて来る。


 芽衣胡と證の間に黄色の小山が二つ。ぼんやり視認出来た芽衣胡は黄色いのがたまごだと悟る。


 たまごの山に胸が踊る。このような贅沢は二度と出来ないだろうと思っていると證が銀色の棒を差し出して来る。


「スプーンだ。これで食べなさい」


 はい、と返事しながら右手の平を上に向けるとそこに銀色が乗った。ひやりとした感触はすぐに自分の温度に染まっていく。


 光明寺でスプーンを扱うことはなかったが、祝言前に万里小路家でスプーンとフォークの扱い方だけは教えられていた。


 『箸を一本持つのと同じように』


 それは母が芽衣胡に教えた言葉。それからスプーンの先が皿に当たってカチカチとした音を出さないようにとも教えられた。


「いただきます」


 いよいよ実践する時だと、緊張に指先を震わしながら黄色の山にスプーンを静かに下ろす。山の中に沈んでいく感触。器用にスプーンを返すとスプーンの先が重たくなる。

 口の中に入れて芽衣胡は驚いた。それは表情にも現れており、真っ直ぐに見ていた證は頬を緩める。


「ご飯が入ってる!」

「オムライスだからな」

「あ、……そうですよね」


 誤魔化すように笑って芽衣胡はまたもうひと口、ひと口と食べ進める。

 小さな胃にひと皿を食べ切るのは難しいはずだが、残して粗末にしてはいけないという思いと、頬が落ちそうなほどの美味しさにみるみる皿の上から黄色の山が減っていく。


 口に入る度に美味しいと顔が物語るので、證は新鮮なものを見るような感覚でずっと見ていた。

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