第36話
「證様」
證を呼ぶ声は部屋の外から。そこには祝言の日に證の側にいた男がいる。
「昼食が整いました」
「ああ」
證は芽衣胡の唇からようやく指を離し、男に目だけで指示を出す。男はその指示に従い、部屋に入った。
「華菜恋さん、これは秘書の
「榎木様」
「どうぞ『榎木』とお呼びください華菜恋様」
「榎木さ、ん」
「はい。何か困ったことがございましたら遠慮なく申し付けください」
「ありがとうございます」
声は證の方が少し低い。
しかし背丈は変わらない。
今も同じような洋装をしているのだろうと、芽衣胡は思う。二人とも黒い塊にしか見えない。
「さあでは昼食に行きましょう。皆様お待ちです」
明るさのあるはきはきとした榎木の声に證が先頭で部屋を出て行く。しかし證は振り返った。
「何をしている、行くぞ」
「わたしも?」
「もちろんだ、来なさい」
芽衣胡は黒い塊を目指す。手を伸ばした證の手が芽衣胡の腕を引っ張る。
「うわっ」
「隣にいなさい」
「はい」
「ここを持ちなさい」
芽衣胡の腕は傀儡のように證の手によって動かされる。そのまま證のたくましい右腕に手が当たる。
そこを持てということなのだろうと考えながら芽衣胡は従った。
「エスコートの練習なら今でなくても良いでしょうに」
後ろで榎木の声がする。もちろん證には聞こえていたがうるさいとばかりに無視して食事をする広間へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます