5、外出

第32話



 光明寺では夜が明けると同時に起きていた芽衣胡は、その日その時間になってやっと眠りについた。


 はっとして、飛び起きた時には陽はすでに昇っていた。隣で寝ていた證はもういない。


 寝台から降りて、寝室を出る。


「起きたのですね、芽衣胡様」


 そこには調度品を掃除する伊津がいた。


「伊津……。ねえ證様は?」

「もう屋敷を出られておりますよ」

「お見送りもせず不出来な嫁だと思われたかな?」

「いえいえ。證様は『疲れているようだから寝かせていてやれ』と仰せでしたよ」

「そう……。ねえ伊津、厠に行きたいから連れて行ってくれる?」

「勿論ですよ。歩けますか? 痛くはありませんか?」


 伊津に何の心配をされているのか分からない芽衣胡は首を傾げる。


「いつも通り歩けるし、痛いところもないけど……」

「ふふふ。そうですか。では厠に行きましょう」


 伊津は芽衣胡の手を握るとゆっくり先導する。勝手の分からない屋敷内で、芽衣胡は伊津の助けが必要不可欠だった。


「厠もこの離れの裏手にありますから、きっとすぐに覚えられるでしょう。こちらですよ」


 芽衣胡は摺り足で歩数を数える。


 右に出て、ひいふうみい。

 右に曲がって、ひいふうみいよおいつ――。


 初めての場所はそうやって覚えるしかない。

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