第31話

「證様?」


 自分のお願いする姿が面白かったのかと芽衣胡は首を傾げる。そんな芽衣胡の真面目な顔を見て、證は首の後ろを掻いた。


「良いのか?」

「はい!」

「己の身に何が起こるのか分かっていないだろう?」

「分かっております。お腹にやや子を授かります」


 元気に答える芽衣胡を見て證は大きく息を吐く。


「まるで分かっていない」


 證はそう言うと芽衣胡の肩に手を掛けて芽衣胡を自分の下に敷く。


「あ、かし様?」


 芽衣胡の視線が泳ぐ。二人の視線が合うことはない。芽衣胡が何を見ているのか分からないまま、證はその顔を撫で、そのまま首筋に指を這わせる。


 芽衣胡はそのくすぐったさに身を捩りながら笑い声を立てた。


 しかし證は止めない。


 この何も分かっていない無垢な少女はこの後どんな顔をするだろうと思うと背筋がざわめく。


 芽衣胡の頬に口を付ける。そのまま首筋を吸い、手は細い腰を撫でる。


 喫驚した芽衣胡の笑い声が止む。笑いを潜めたその唇に温かく湿り気のあるものが触れて、芽衣胡はまた驚いた。


 まるで食べられているようだと思って、初めてそれが證の唇だと気付く。


 ――もしかして接吻?


 荒々しくはない、優しい口付けが、ゆっくり離れていく。


 ――我慢できた!


 きっとこれが『初夜』なのだと芽衣胡は安堵する。これでやや子を授かれるのだと、ほっとしたその瞬間、證は芽衣胡の浴衣の袷を開いて胸を露わにした。


「っやっ!」


 羞恥に芽衣胡はその胸を腕で隠す。


 決して無理強いするつもりのなかった證は芽衣胡から離れて、済まない、とこぼす。


「寝よう」


 證は芽衣胡に背を向けて横になった。


 芽衣胡も乱れた浴衣を直して、證に背を向けて横になる。

 心臓がうるさく鳴り響く。


 芽衣胡は左手で袷を掴み、右手で唇に触れた。


 ――接吻はそれほど嫌ではなかったかな。


 そう自覚しただけでまた胸がツンと苦しくなる。とりあえずこの体調不良を治すには睡眠を取らなければならないと思い、芽衣胡は目蓋を閉じた。

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