第18話
横にいるのは敵。
隙など見せてはならない。これ以上の失態はあってはならない。そう思いながら芽衣胡は膝の上に置いた指をぐっと握り込む。
「緊張しているのか?」
静かな問い掛けに、芽衣胡は首を横に振る。
「否定しなくていい。俺も緊張している」
證は依然として前を向いたままそう言うが、だがその声に鋭さはない。
しばらく沈黙が続いていたがおもむろに證は箸を持つと膳をつつき始める。
「貴女も何か食べなさい」
そう言ったものの證の箸も進まない。はあ、と大きなため息が聞こえた芽衣胡は肩を上げる。
「緊張していると食べる気にならないな。終わったら握り飯が食べたいな」
前半は芽衣胡に向けて言ったのかもしれないが、後半は誰にともなくただ呟いたように芽衣胡には聞こえた。
「だいぶ盛り上がっている」
元より家同士の付き合いがあった両家。晴れの宴を前に盛り上がらないわけもなく、各々自由に移動し酒を酌み交わしていた。
そこへ芽衣胡の祖母がやって来る。この結婚の発端者である万里小路梅子に会うのは初めてだった。
「まあまあ華菜恋。別嬪さんだわ」
老眼の梅子にはこれが芽衣胡だとは気付かれないだろうと幸子から聞いていたが安心は出来ない。
「證さんも、清矩様によく似ていらして……。わたくしたちの若い頃を見ているようだわ」
「ありがとうございます、梅子様」
「清矩様も早くに亡くなられて……。だけどだからこそこの約束が果たせて良かったわ。あとは子どもね! 楽しみだわ。わたくしが生きている間にお願いね? それも果たせたならば、いつお迎えが来ても心置きなくあちらへ逝けるわね。あ、これはおじい様の春綱さまには内緒よ」
そう言いながら梅子は後ろをこっそりと見やり、春綱がこちらを見ていないことを確認すると微笑んだ。
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