第15話

「お母様にお会い出来てとても嬉しいです」

「またいつでも会えるわ」

 芽衣胡は微笑むが、返事はしない。鬼の家に嫁ぐということは檻の中に入るようなもの。二度と出ることは叶わぬと覚悟している。というのも、嫁いだきり華菜恋は一度も芽衣胡の前に姿を現さなかったからだ。

「ごめんなさいね」

 未だ謝り続ける幸子を見て芽衣胡は胸を痛める。

 ――お母様だって悪くない。

「お母様、これは華菜恋のためだけではないのです。ひいてはわたしのため。わたしの生死も左右されているのです。だからそんな顔をしないでくださいませんか?」

 幸子の両目の端から雫がこぼれ落ちていく。

「にわかには信じられない話しだけれど、双子である華菜恋と芽衣胡が同じことを言うのだもの。ちゃんと信じるから、だから一人で無茶なことはしてはいけませんよ。何かあればすぐに伊津に言いなさいね。伊津もきっとわたくしに知らせるのですよ」

「かしこまりました」

 幸子は涙の滲む瞳で痩せた身体の芽衣胡を見る。育児院に預けていたとはいえ、万里小路家で何の不自由もなく暮らす幸子には分からない苦労もあったことだろう。温かいごはんをお腹いっぱい食べたこともなかったのだろうと思い至れば、自分は何と酷い親であろうかと自分を詰らずにはいられない。

 視力もほとんどないはずであるが、一見してそうとはすぐに見抜けないのは芽衣胡の明るさゆえか――。こればかりは光明寺に預けて良かったと幸子は感じるのであった。

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