3、松若

第13話


 華菜恋が松若家に嫁ぐ日がやって来た。

 華菜恋は前日までの数日間、「行きたくない」と泣き、「誰にも会いたくない」と部屋にこもり、「食べたくない」と食を拒んでいた。また「伊津が一緒でなくてはどこにも行かない」と喚いたお蔭で華菜恋の側には常に伊津が張り付いている。

 これは華菜恋と芽衣胡がいつ入れ替わっても気付かれないようにとした作戦である。

 また逆に芽衣胡は枯れ枝のような手足と貧相な身体に肉を付けるべく伊津がこっそりと万里小路の台所から食べ物を拝借しては芽衣胡の口に押し込んでいた。

 しかしたったの数日で芽衣胡の身体つきが女らしくなることはなく、白無垢の下には幾重にもさらしが巻かれていた。

「い、つ、……くるひい」

「我慢してください。それでなくても貧相な身体をどうするんですか? 全然太らないからですよ。更に綿でも巻きましょうか?」

「すみません、我慢します」

「綿帽子で良かったですよ。しっかり目深にしてその痩けた頬まですっぽり隠してくださいませ」

「すっぽり隠せないでしょ。それにすっぽり隠したら本当に何も見えない。薄くすら見えなくて危ないよ」

「では始終俯いていてください。大丈夫です、お化粧をすればなんとか誤魔化せます」

「華菜恋ではないなんて露呈したら鬼に食べられてしまうかな? 鬼のアカシだっけ?」

「万里小路の姫は一人しかいないことになってますし、お嬢様と芽衣胡様の声はそっくりですし、そうそう露呈することはないと思います。というより露呈しないと願いたいです。わたしの身まで危うくなりかねません。お嬢様のためとはいえ、お嬢様から離れるなんてわたしは、わたしは……。わたしはお嬢様に着いて行きたかったのに……」

「伊津ごめんね。伊津がいないとわたしが困る。わたしが困れば華菜恋にも迷惑が掛かるでしょ?」

「分かっております、分かっておりますよ!」

 華菜恋は唯一事情を話した母の遠縁を頼り西の地へ隠れている。それ故、万里小路家で華菜恋が芽衣胡に入れ替わっていると知るものは伊津と母の幸子のみ。

 幸子は他の者が芽衣胡の様子を見に部屋を訪わないように見張っている。万一、父や祖父にでも露呈すれば芽衣胡はその場で切り殺されるかもしれないと考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る