第12話

「わたくしも芽衣胡も死ぬ夢を見たの」

「待って! わたしも同じ! 華菜恋が死んだって聞いてわたしも死ぬ夢を見たの!」

「二人同じ夢を見たと言うのかい? 双子だからかな?」

 光生が腕を組んで首を傾げると秋乃も首を傾げた。

「でも夢だとも思えないの。なかなか生々しいくらいはっきりとした痛みのある夢だったから」

 痛みと聞いて芽衣胡は首を押さえる。首が痛いと心が訴えている。心の記憶は果たして夢なのか。

「伊津、わたくしが松若に嫁ぐのはいつだったかしら?」

「はい、来月に決まりました」

 芽衣胡は「え」と小さく声を出す。

 ――でも華菜恋は松若に嫁いでやや子を身ごもって、それから……。

「え? まだ嫁いでない? 来月?」

「そうなの。嫁いでないの。それでわたくしは来月に嫁ぐでしょ? それから――」

「やや子を身ごもって――」

「耐えられなくて赤子共々死んでしまうの」

「死ぬ? 華菜恋さんが?」

「そう。華菜恋が死んで、華菜恋を溺愛していた万里小路の父、通綱がここに来て、わたしを――」

「殺したのね。そうお父様が芽衣胡を……」

「いや、どういうことだ!? 二人ともこうして生きているではないか?」

「光生様、だから頭のおかしな事を言いますと申したのですよ? ほら、おかしいでしょう?」

「ああ、待て」

 そう言って光生は頭を抱えた。秋乃に至っては口をぽかんと開けている。

 理解の追いつかない光生と秋乃を置いて華菜恋は芽衣胡を見る。

「わたくし一度はあちらに行ったみたいなのよ、仏様の所にね。だけどね仏様に言われたの。『お前の片割れがお前の幸せを願っているから死ぬにはまだ早い』って追い返されたのよ。それで現世に帰る途中、芽衣胡が死ぬのが見えたの。だから目が覚めたら一番に芽衣胡の安否を確認しないといけないって思って、ここに飛んで来てしまったわ。芽衣胡、あなたはわたくしの幸せを毎日願ってくれていたのね」

 ううん、と芽衣胡は首を横に振る。

「わたしの幸せは華菜恋の幸せよ。華菜恋が幸せならわたしも幸せ。だから今度は願うだけじゃなくてわたしが華菜恋を幸せにする。華菜恋に我慢なんてさせないから!」

「芽衣胡……」

 双子が鏡のように同じ微笑みを互いに見せる。

「ああでも、ということはわたしたち死んだ日より前に戻っていると考えればいいの?」

「そうみたいね。わたくしが嫁ぐ前に戻っているのは頭が痛いけれど……。もう一度あの鬼の家に行かなければならないなんて苦行だわ……」

 苦しみに歪む華菜恋の顔を見て芽衣胡の胸が痛む。華菜恋を救いたい。華菜恋が心穏やかに過ごすために自分が出来ることは何だろうかと芽衣胡は考える。

 華菜恋が幸せになるために仏様から与えられた時間の巻き戻し。きっと自分にも役目があるはずだと芽衣胡は思案する。

「華菜恋は万里小路の家で幸せだった?」

 華菜恋は眉を寄せると首をゆっくり横に振る。

「華菜恋は松若に嫁いで幸せだった?」

 華菜恋は泣きそうな顔で首を強く横に振る。

「松若には鬼がいるの。本当に本当に怖くて怖くて……」

 夫の姿を思い出した華菜恋が震え、目から涙をこぼす。

「ねえ、聞いて華菜恋」

「なあに、芽衣胡?」

「いい考えがあるわ」

「いい考え?」

「そう! 見えるから怖いのよ。見えなければ怖くなんてないわ!」

 どういうこと、と首を傾げる華菜恋に芽衣胡は微笑む。

「鬼の元にはわたしが行くわ! 鬼なんて見えなければへっちゃらよ!!」

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