第87話

「まず行くべきだと思うのは、竜頭りゅうずたきです!」


「おぉ、そこ有名だよねえっ」


「日本三名瀑のひとつですからねー!」





ここに来たから絵を描こうと思った。


この場所がなければ、絵を描かなかったかもしれない。




私という人間の発端の地だ。


大事な人と一緒に訪れた。



両親と、それから──。




「この滝は何がいいって、男体山の噴火によってできた溶岩の上を210メートルにわたって流れ落ちる迫力ですよね」


「…ほ、ほう」


「幅10メートルほどの階段状の岩場を勢いよく流れる渓流爆。滝つぼ近くが大きな岩によって二分され、その様子が竜の頭に似ていることからこの名がついたともいわれています」


「…す、すごい」


「特に今!5〜6月は赤紫色のトウゴクミツバツツジが咲き誇るおすすめの季節です。また、9月下旬ごろからは紅葉の名所として人気が高くてですね、モミジやシナノキなどに彩られた美しい景観が楽しめます」


「…うんうん」


「私、秋にも行ったことがあるんですけど、観爆台から眺める紅葉に彩られた滝つぼの眺めは最高!さらには、竜頭ノ滝の真ん前にある茶屋で、お団子を食べながら見るのがまた格別なんです!」


「……そう、なんだ」


「風情ありますよね…。水が落ちる音を聞きながら、お茶をする。インスピレーションが沸くといいますか、私はあそこが大好きなんです。それと、なだらかな斜面を流れる竜頭ノ滝を、遊歩道から眺めながらウォーキングするのも…」




それから──。




「とまんないね」



高速で開閉されていた私の口がピタリと止まった。涼しげな声が、私の勢いを殺すかのごとく、平然と割って入ってきたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る