第82話

ハルナさんと同じ年代なのだろうと伺える若い女の人。


私の隣に座っているその人から、興味深そうな視線が落とされていた。






「それ、日光の観光マップですよね?」


「……え?」



さらに人差し指を突き立てて、私の膝の上に広げてある観光マップを示してくる彼女は、えくぼをつくって朗らかに笑う。



「あ、はい」


「よく行かれるんですか?」


「よく、というほどでもないですけど、」


「……だってさ!サトル!明日回るところのおすすめ教えてもらおうよ!」




カップルかな?


サトルと呼ばれた人の腕を引っ張っていて仲睦まじい。




「エリ。またそうやって誰にでも声をかけて」


「あら、いいじゃな〜い。今日はおばあちゃん家に顔出さなきゃで、決める暇ないんだし、今のうちにいいスポット教えてもらった方が効率いいじゃん!」


「まあ、そうだけど、迷惑だろ」


「うっさーい。ねえねえ、お願いします!教えてくださいませんか!」




ハルナさんと同じ年代だと思われるお二人は、どうやらエリさんとサトルさんというらしい。


エリさんは短いボブカットを揺らし、チャームポイントのえくぼを作って小首を曲げる。





「わ、私で良ければ」


「わあ!本当ですか!ありがとうございますっ!」


「手間をとらせてしまってすいません…」




エリさんからは華やかなオードゥトワレの香りがした。


無邪気さがあるけれども、それでも容姿は大人っぽい人だと思った。


羨ましい。


私もこんな風になりたいなあ。





「手間ってなによ。そういえばサトル。来週のショッピングは付き合ってよね。一人で東京に行くなんて、ぜったい迷子になっちゃうんだから」





溜息を吐いて呆れるサトルさんに、エリさんは頬を膨らませている。



あれ、おすすめスポットを教えるんじゃなかったのかな。




「分かったけど、先月も行ってただろ」


「だからなに。いいじゃん、あっちの方が新作置いてるんだもん」


「……だからって、栃木から東京ってすぐに行ける距離でもないんだから」

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